篠崎史紀(ヴァイオリン)

出演回数 53回

王子ホールで「MAROワールド」を始めた当初は、まだ異ジャンルとのコラボレーションはほとんど行われていなかったと思う。語り手が自由に歩いたり、パントマイムの人が奏者に触ったりすることもあったし、生け花とのコラボレーションでは演奏中にハサミの音を出すこともあった。お客さんにとってはすごく目新しいことだったんじゃないかな。でもヨーロッパではそういう演奏会をよくやってきたんだよね。お城の中庭を会場にした音楽祭では、鳥の鳴き声や風が吹いて木がそよぐ音とか、そういったものが全部入ってくる。それが空間のなかで音楽の一部として存在していた。その場に存在するものすべてが音楽であるという考え方や、その空間を共有する楽しみがこの王子ホールで定着したと思うな。これからの新しい室内楽、サロン的な雰囲気の在り方を提示できるようになった。だからこそたくさんのリピーターがいるんじゃない?

王子ホールは先端をいっているホールだと思うから、新しい何かを期待するというよりも、これをこのままキープしていくことが大事だと思う。日本だけではないかもしれないけれど、継続するというのは難しいこと。日本は「うるさい」というクレームがついたからといって除夜の鐘をなくすとか、ちょっとしたきっかけで180度変わることがあって、そういう意味ではアメリカ的なところがある。でも王子ホールは極端に方向性を変えるのではなく、いつもと同じような状態で続けていってほしいな。

MAROワールドの開演前や休憩時間にホール内を映しているモニターを見ると、ヨーロッパのサロンみたいにお客さん同士で話しているのが見える。それが楽しみなんだよね。人と人のつながりが音楽会場で生まれるというのは素晴らしいことだと思うのよ。温かくてアットホームな空間で、同じ顔を見かけて、親くなっていく。もっともっとそういう繋がりが増えていくとうれしいね。

2005年10月2日 「MAROワールド Vol.4 “ブラームス”」。ピアノ四重奏曲を演奏する傍らで華道家・芦田一寿が花を活けていく。

2007年2月21日 「MAROワールド Vol.7 “モーツァルト Part.II”」。パントマイム演者と再びコラボレーションし『マロザイル』を披露。

2017年1月8・9日 「MAROワールド Vol.30 “シャトー・ド・マロへの招待状”」。プーランクの「城への招待状」ではついにセリフ付きの芝居という新境地を開拓。