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インタビュー 鈴木優人&藤木大地

王子ホールマガジン Vol.49 より

鈴木優人は文字通りの『才人』だ。王子ホールではチェンバロ奏者としてたびたび篠崎“まろ”史紀率いるMAROカンパニーのアンサンブルを闊達な通奏低音で支え、また2014年にはピアニストとして波多野睦美のうたう日本歌曲の伴奏を務めた。それに加えて演出や音楽祭のプロデュース、また鍵盤楽器の演奏だけでなく指揮者として登場する機会も増えるなど、その活躍の幅は広がる一方である。その彼が、ライフワークのひとつといえるアンサンブル・ジェネシスとこの秋の《バロック・ライヴ劇場》に登場する。この公演のもうひとりの主役は、2012年の日本音楽コンクールでカウンターテナーとして初の優勝者となり、またウィーン国立歌劇場と日本人カウンターテナーとして初めて客演契約を結ぶなど、期待を集める藤木大地。前半はモンテヴェルディなどヴェネツィアにゆかりのある作曲家の作品を並べ、後半はヘンデルのオペラアリアを特集。オリエント急行さながらの贅沢な音楽の旅にいざなってくれる2人の楽師に話を訊いた――

右:鈴木優人(チェンバロ、オルガン)

オランダ生まれ。東京藝術大学作曲科及び同大学院古楽科、ハーグ王立音楽院オルガン科及び即興演奏科修了。鍵盤奏者(チェンバロ、オルガン、ピアノ)及び指揮者としてバッハ・コレギウム・ジャパンや横浜シンフォニエッタはじめ国内外の公演に多数出演。その演奏は「火花が散るほど熱くて説得力のある演奏」(独フォノ・フォラム誌)と評され、チェンバロソロ CD「rentontre」は各紙で絶賛される。新国立劇場《ポッペアの戴冠》、東京・春・音楽祭でのワーグナー作品の演出、ハクジュホールでのラモー作品の演出・指揮、調布音楽祭エグゼクティブプロデューサー、九大フィル初代ミュージック・アドバイザーを務めるなど、各方面から大きな期待が寄せられている。音楽監督を務めるアンサンブル・ジェネシスでは、オリジナル楽器でバロックから現代音楽まで意欲的なプログラムを展開。またJ.S. バッハ BWV 190喪失楽章の復元や(Carus)、モーツァルト『レクイエム』の補筆・校訂が高い評価を得る。

左:藤木大地(カウンターテナー)

宮崎県出身。声楽を鈴木寛一、マイケル・チャンス他に師事。東京藝術大学卒業。新国立劇場オペラ研修所修了。2003 年新国立劇場「フィガロの結婚」にテノールとしてデビュー後、ボローニャ、ウィーンに留学。11 年、カウンターテナーに転向。12 年、第31回国際ハンス・ガボア・ベルヴェデーレ声楽コンクールでファイナリストとなり、同年、カウンターテナーとして初めての日本音楽コンクール声楽部門優勝者となり、話題となった。13年5月にボローニャ歌劇場グルック「クレーリアの勝利」マンニオ役にてデビュー。続けて同劇場でバッティステッリ「イタリア式離婚狂想曲」カルメロ役で出演。同秋には日生劇場でのライマン「リア」のエドガー役を好演。14/15シーズンにはウィーン国立歌劇場と日本人カウンターテナーとして初めて客演契約を結び、続けて15/16シーズンの客演契約も結ばれるなど、バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーで国際的な活動を展開中。15年第19回松方ホール音楽賞受賞。声楽を鈴木寛一、マイケル・チャンス他に師事。ウィーン在住。

 

――11月の《バロック・ライヴ劇場》シンプロン・オリエント急行に向けてお話しを伺います。まずはお2人が知り合った経緯をお聞かせください。

藤木大地(以下「藤木」) この間の5月にラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンで優人くん指揮のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)と「マタイ受難曲」をやらせていただいたのですが、実はカウンターテナーに転向する前の学生時代に、テノールとして1回だけ「マタイ」の合唱に乗ったことがありました。そのときは鈴木雅明さん指揮の読響で、藝大の学生とBCJのコーラスの共演でした。優人くんは出演していなかったのですが、楽屋で周囲の人とすごくフレンドリーに接していました。そのときは鈴木雅明さんのご子息とは知らなくて、「藝大で見かけたことがあるな、たしか作曲科の人だ。なんでここに?」と思っていました。それが出会いですね。

鈴木優人(以下「鈴木」) 15年前ですよね。それは記憶にあります。藤木さんがオーガナイズした赤坂の某居酒屋チェーンでの打ち上げにも参加しました(笑)。

藤木 藝大では、声楽の先生の発表会とか勉強会とかで優人くんが伴奏しているのをよく見かけました。

鈴木 藝大での藤木さんは輝いていましたね。「ザ・テノール」という感じ。

――在学中も卒業後も、テノール時代は共演していなかったのですね。

藤木 卒業後になると、共演どころか会ってもいなかったですね。僕は新国立劇場のオペラ研修所に行って、その後イタリアに留学したので、接点がなかった。当時はとにかくどうやって食べていこうかという、切実な思いで生きていました。最初の留学から帰ってきたときに、オペラのプロデュースとかマネジメントとかの勉強をしようと思った時期もあります。小澤征爾さんのオペラプロダクションのアシスタントに入れてもらって、裏方として働いたりして。

――カウンターテナーに転向されたのは、風邪をひいたことがキッカケという話ですが。

藤木 2010年の6月でした。暗譜する曲がたくさんあって、練習しなけれいけないのに、風邪で声が出せなかったのです。仕方がないから裏声で練習してみたら、裏声が思ったよりもいい具合に出て、わりとコントロールができた。それで調子に乗っていろいろと歌ってみて、裏声で録音したものを音楽関係のいろいろな知り合いに送って意見を訊いてまわりました。留学時代の先生やアメリカにいる信頼している音楽家などですね。カウンターテナーへの転向を考え始めたときに、優人くんはBCJでたくさんカウンターテナーを聴いているだろうから、いいアドバイスをしてくれるのではないかと思いました。そこでツイッターを通じて彼に連絡を取って、自分の事情を話して一回聴いてもらうことになりました。会ったのは10年の11月ですね。

鈴木 調布の僕の実家に来てもらって、チェンバロと合わせました。

藤木 優人くんはすごくオープンでフレンドリーなんですよ。だからお願いできたんでしょうね。そのときは歌えるのが「メサイア」の一部と《オンブラ・マイ・フ》ぐらいしかなかったのですが、彼は「楽しかった」と言ってくれました。「やめたほうがいい」とは言わなかった。そして雅明さんにも聴いてもらえるようにアレンジしてくれて、その数日後にBCJの練習場に行って聴いていただきました。そこで雅明さんにも背中を押していただいた。

鈴木 声楽の先生のレッスンにはよく顔を出していたけど、自分では歌をやっていないから割と無責任なことでも言えてしまうんですね。自分で歌をやってきた苦労がある人はおいそれと意見を言えませんよね。カウンターテナーになりなさいと簡単に言えるテノールの先生はいないはずです。自分のやる楽器をレッスンするというのは、相手がアマチュアであっても責任を感じるものだし。

藤木 転向してすぐの2011年の時点では、ヨーロッパのコンクールで1回ファイナルに残ったぐらい。日本では全然コンクールを受けていませんでした。11年の11月に、ちょうど1年経ったので聴いてください、ということでまたBCJの事務所に行って聴いてもらいました。この時点では仕事をいただくまでには至らなくて、「もうちょいがんばれ」ということかなと(笑)。

――そして翌12年に日本音コン初のカウンターテナーの優勝者となった。最近ではBCJも含め共演の機会が増えてきたようですね。

鈴木 藤木さんは囚われない、こだわらない人。「この曲をやるならこういうテンポで、こういう雰囲気でなければダメだ!」なんてことはない。むしろどういうテンポでどういう雰囲気にするかを一緒に探していくというスタンスですね。昨年末にヘンデルの「メサイア」で共演した時は、「優人色に染めていいよ」と言っていました(笑)。

藤木 そしたら「染めてあげる」だって(笑)。

鈴木 気持ち悪いですねぇ(笑)。

藤木 同じことを優人くんにも感じます。自分で歌っていて、「ここの間は自分のもの」っていう箇所があったとして、そこですごく長く間をとっても許容してくれる。そういう柔軟性があります。

鈴木 最近でいうと、昨年末の「メサイア」に続けて1月のNHKニューイヤー・オペラコンサートで、ヘンデルの「リナルド」のすさまじいアリアを一緒に演奏しました。そしてこの間の「マタイ受難曲」ということで、非常にいい流れでつながっていますね。

藤木 優人くんとはバロックばかりやっていると思われるかもしれませんけど、以前はピアノでマーラーの「リュッケルト歌曲集」やブリテンの「民謡編曲集」をやったこともあります。優人くんとは同世代だし、同じぐらい長生きするだろうし、演奏する限りは縁が続くんだろうなと思える。だから死ぬまで死ぬほど共演しようという話をしています。

――今回はアンサンブル・ジェネシスを交えての公演です。

鈴木 アンサンブル・ジェネシスは2005年に結成したのですが、バッハをやるにしてもレジデント・コンポーザーの新垣 隆さんの新作が入っていたりだとか、とにかくクリエイティブなことをやるグループという位置づけです。60歳になっても続けたいグループなので、活動のペースがすごくのんびりしています(笑)。今回のようにバロックに限定した演奏会というのは、昔ドイツで1回やったぐらいですね。

藤木 カウンターテナーになろうと決意してからは、バロックをもっと勉強するためにたくさんのコンサートに行き、映像も数多く観ました。ヨーロッパでは小編成の奏者の中でカウンターテナーが歌うという形態はポピュラーで、こういう世界もあるのかと感心していました。自分がカウンターテナーになってから4年が経ちますけれど、バロックのマーケットに入り込めたかというとそうでもなくて、現代もののオペラやリサイタルを中心とする活動でした。それがようやくバロック・アンサンブルの中に入って歌うという、自分がひとつの夢として描いていたステージを実現できるので、とても楽しみですね。

鈴木 ジェネシスのメンバーはヨーロッパに住んでいる人が多くて、チェロの懸田さんはずっとイタリアに住んでいるし、山口さんは旦那さんがイタリア人。イタリア語の歌詞を理解したうえでの演奏になるので期待していただきたいです。

――今回のプログラムについてお訊きします。休憩を挟んで前半にヴェネツィア、後半にロンドンという都市が出てきますね。

鈴木 旅をするようなイメージのプログラムは多いのですが、今回はヴェネツィアからロンドンへ旅をするような内容なので、「オリエント急行」になりました。カウンターテナー(アルト)というのはもともとカストラートがやっていたので、人を狂わせるような官能があるんですよね。バロック時代はテノールより重要な役が多く、特にヘンデルのオペラにおいては主役クラスが必ずアルト音域で、カストラートの役どころになっています。ヘンデルがあれだけ多くのオペラを残せたのは、毎回ヒットを飛ばしてたからであって、それだけの魔力があったのだと思います。そして藤木さんにも人を狂わせるだけの魔力がある。

藤木 音符が多すぎて自分が狂いそうになりますけどね(笑)。

鈴木 アリアでは陶酔して狂ってもらって、その間に一息つくかたちで器楽曲が入ってくるような構成です。ファルコニエーリのパッサカリアはカッコいい踊りの曲だし、カステッロのソナタでは山口幸恵さんの超絶技巧を楽しんでもらえます。モンテヴェルディの《アリアンナの嘆き》はぜひ歌ってほしいということで僕から提案しました。

――その他のアリアについては、藤木さんの希望された曲が多いんですか?

藤木 アリアは僕のほうから提案をして、それがだいぶ刈り込まれるだろうなと思っていたら、ほとんど残っていたのでビックリしました(笑)。

鈴木 あんまり裏でヒマにされても困るから、銀座の街に遊びに行かない程度に働いてもらうことにしました(笑)。

藤木 僕はバロック・アンサンブルと歌いたい曲をあれこれと出しただけなのに、いつの間にかヴェネツィアからロンドンの旅としてまとまっていた。その構成力がすごいですよね。

鈴木 今回パーセルが1曲だけ入っています。パーセルはブリテンがたくさん編曲していますけど、そうしたくなるような美しい曲が多い。《夕べの讃美歌》は低音が決まっていて、そこにどう和音を乗せていくかというのは歌手との駆け引きで決まります。だから毎回違う演奏になるし、藤木さんとならどんどん遊べるような気がします。

藤木 この時代の音楽ってそうやって即興のなかから生まれたはずで、楽譜に残っているのはそのメモみたなものだろうし、なにをやってもいいはず。ワクワクするようなことが起こると思います。

鈴木 理屈抜きに「ああ、いい曲!」と思ってもらえるはずですよ。

藤木 曲名だけ見ると知らないものばかりかもしれませんが、聴いていただくと「ハレルヤ!」な気分になれるプログラムですよね。

鈴木 後半はほとんど「一人ガラコンサート」と言ってもいいヘンデルの名曲選です。ヘンデルのオペラの優れている点は、自由な場所が必ずあること。いざ本番になったときに、自分の中に渦巻いている感情を歌にのせてぶちまけられるように曲が書かれています。どんなに即興をのせても大丈夫。本番になって、調子がよかったりお客さんの反応がよかったり、そういうときにもっと長く歌っちゃおうとか、遊べるんです。それでいて構造はしっかりしている。アリアはストーリーとして聴いてもらえるように構成されています。「ロデリンダ」と「リナルド」はさらにオペラのワンシーン的な感じになっています。ここのストーリーをどう表現するかがポイントですね。

藤木 ひとつのオペラシーンをいくつかまとめてできるのは絶対にいいと思う。いろんな性格のアリアをまとめて聴けので、バロック・オペラのなかで役柄や心情がどう変わるのかを感じ取れると思います。一生懸命たくさんの音符を歌うので、下を向かずに聴いていただきたいですね。ほんと、すごい大変ですもん(笑)。オペラの一番大変なところがずっと続くようなものですから。それでお客さんが熱狂するようなコンサートになると嬉しいな。

鈴木 オリエント急行って移動することだけが目的じゃなくて、夢がありますよね。むしろ移動したくないというか、降りたくないという気持ちにさせてくれるものだと思う。だから急行だけど、各駅停車の旅というか、ひとつひとつの曲を楽しんでいただきたいですね。

(文・構成:柴田泰正 写真:藤本史昭 協力:ジャパン・アーツ、AMATI)

【公演情報】

《バロック・ライヴ劇場》第4回公演
鈴木優人&藤木大地 ~シンプロン・オリエント急行~
2015年11月12日(木) 19:00開演 (18:00開場)
全席指定 5,000円

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