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インタビュー
キャロリン・サンプソン

王子ホールマガジン Vol.57 より

10年以上にわたりバッハ・コレギウム・ジャパンと共演を重ねてきたイギリスの名ソプラノ、キャロリン・サンプソン。オペラや古楽アンサンブルとの共演を中心に活動してきた彼女は、2015年にBISレーベルから初の歌曲アルバム『Fleurs』をリリースしました。このたび王子ホールで行われる彼女の日本初リサイタルでも、このアルバムの収録曲が披露されます。プログラムについて、そして共演ピアニストのジョセフ・ミドルトンについて、音楽ライターの後藤菜穂子氏によるインタビューです――

キャロリン・サンプソン(ソプラノ)

コンサートとオペラの両面で才能を発揮し、イギリス、ヨーロッパ、アメリカで輝かしい成功を収めている。パリオペラ座、モンペリエ歌劇場、ライン歌劇場等に登場する一方、ボストン古楽祭でリュリ「プシュケ」のタイトルロールを演じ、2008年のグラミー賞にノミネートされる。BBCプロムスにレギュラーで登場し、またエイジ・オブ・エンライトメント、イングリッシュ・コンソート、バッハ・コレギウム・ジャパン等と頻繁に共演している。ヨーロッパでは、コンセルトヘボウ管、フライブルク・バロック管、ゲヴァントハウス管、ウィーン響等と共演。またヘレヴェッヘ、ピノック、シャイー、クリスティ等の著名指揮者と共演。最近ピアニストのジョゼフ・ミドルトンとパートナーシップを組み、歌曲のデビューリサイタルCD『Fleurs』を録音、グラモフォン・アワード2015のソロ・ヴォーカル部門にノミネートされる。最新アルバムは『J.S.バッハ:ソプラノのためのカンタータ集(HMM-902252)』。

 

――これまで日本のファンは、主としてバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)の公演を通してサンプソンさんの歌唱に親しんできたわけですが、初めてBCJと共演されたのはいつですか?

キャロリン・サンプソン(以下「サンプソン」) BCJとの初共演はバッハの世俗カンタータ集の第1巻、すなわち「コーヒー・カンタータ」と「結婚カンタータ」の時でしたので、2003年になります。以来、BCJとは十数回、多い時は年に3度も共演したこともあり、この7月にはついに世俗カンタータ集の最終巻をご一緒することができて、本当に光栄でした。

――今回、日本で歌曲のリサイタルをされるのは初めてだそうですね。そもそも歌曲のデビュー・アルバム『Fleurs』をリリースしたのが2年前ということですが、歌曲に取り組むようになった経緯を教えてください。

サンプソン 以前から歌曲を歌うのは大好きでしたが、私のレパートリーのなかでは大きな部分を占めていませんでした。当初は古楽を中心に歌い、その後はオーケストラのソリストとしての歌唱が増えてきましたが、歌曲を歌う機会は多くなかったのです。初めて歌曲のリサイタルを歌ったのは10年ほど前ですが、歌曲を多く歌うようになったきっかけは5年前、ピアニストのジョセフ・ミドルトンとの出会いでした。彼がたまたま私の地元[注:英国ベッドフォード市]の教会で企画していたコンサート・シリーズに出演したのが初共演で、すっかり意気投合し、長期的にパートナーシップを組んでみようという話になりました。そして何度か共演してみてお互いにとても感覚が合ったので、それから歌曲に力を入れるようになりました。
 若い頃は歌曲を歌うのに不安もありました。なぜなら、歌曲のリサイタルの場合、自分なりの歌の「解釈」を聴衆に提示する必要があると思うからです。その点では私は今、数多くの舞台を踏んだ音楽家として歌曲に取り組めることを幸せに思います。今の私はこれらの歌曲について自分なりに伝えたいことがあり、自信を持ってストーリーを語ることができるからです。これまで70以上の録音に関わってきましたが、そうした中でも『Fleurs』は私にとって重要なリサイタル・デビューCDなのです。

――花にまつわる美しい構成のプログラムですが、どのように選曲されたのでしょうか?

サンプソン このプログラムはリサイタルでもCDでもまったく同じ構成で歌います。私もジョセフも、特定の作曲家や時代ではなく、さまざまな様式の歌曲を扱ったプログラムにしたいと考えていたのですが、彼が「花」をテーマにしたらどうかと提案をしてくれて、たくさんの候補の曲の中から二人で選びました。4つのセクションに分かれており、(1)バラにちなんだ歌、(2)リヒャルト・シュトラウスの曲集「乙女の花」、(3)「花の言葉 Blumensprache」(シューベルトのD519)をキーワードにしたドイツ歌曲、(4)花をテーマにしたフランス歌曲、という構成になっています。
 花にまつわる歌曲はたくさんありますが、どちらかというと夢想的で美しいゆっくりした曲が多いので、単調にならないように気をつける必要がありました。たとえばブリテンの《ナイチンゲールとばら》のようなトゲのある歌はプログラムの中では貴重です。そしてその直後にグノーの《ばらの咲く頃》を聴くと、新鮮な空気をいっぱい吸ったような気分になるでしょう。またフランス歌曲のグループでは、フォーレの《捨てられた花》は彼の歌曲の中でも珍しく、暴力的ともいえるでしょう。そしてそのあとで聴くアーンの《捧げもの》は、プログラム中もっとも穏やかな曲で、こうしたコントラストも楽しんでいただければと思います。他方で、リリー・ブーランジェの《去年咲いていたリラの花は》など、知られざる名曲も選んでいます。
 私たちは、結婚式や親しい人が亡くなった時、また恋人に愛を伝える時に花を贈りますよね。言葉で表現できない時、言葉では足らない時に花を贈るように、これらの歌曲を皆様にお贈りしたいと思います。

――このプログラムでは、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語と言語もさまざまですが、言葉によって歌い方はかなり異なりますか?

サンプソン はい、言葉によって取り組み方が違います。フランス語の場合は、一つの音を次の言葉に移るまでいかに保持できるか、横のラインにもっとも気をつかいます。それに対してドイツ語を歌う時はレガートを心がけつつも、子音をはっきり出すように注意します。英語は私にとって母語なので特に苦労しませんが、パーセルやブリテンはきわめて緻密に言葉に音を付けているので歌いやすいです。ちなみに今回歌うブリテンの曲は、もともとロストロポーヴィチ夫人のヴィシネフスカヤのためにロシア語で書かれた曲なので、ロシア語で歌います。

――ミドルトンさんにとって今回が初来日ということですが、どんなピアニストなのかご紹介ください。

サンプソン 彼は私と同じバーミンガム大学の後輩で、その後ロンドンの王立音楽院で学びました。最初は室内楽にも多く取り組んでいたようですが、今は歌曲の伴奏にほぼ専念しており、フェリシティ・ロット、セーラ・コノリーら多くの著名な歌手と共演しています。昨年は英国のロイヤル・フィルハーモニー協会からYoung Artist Awardを授与され、とても期待されている伴奏ピアニストです。
 ジョセフと一緒に演奏していて楽しいのは彼が単なる伴奏者ではないということです。私たちは対等なデュオのパートナーシップなのです。リハーサルでも同等に意見を出しますし、おおむねお互いの意見に納得します。また二人とも練習を重ねて曲を深く追求するタイプだという点でも共通しています。そして実際の公演では、二人ともリラックスして音楽を楽しみながら演奏することができます。そのため、本番が練習とは違うこともありますが、それはむしろ良いことだと思っています。聴衆も私たちが舞台を楽しんでいることを感じることでしょう。また、最近私が再び地元に住むようになってからは、家も近いので、今では家族ぐるみの付き合いもあります。そうした友人と仕事ができるのは幸せです。

――サンプソンさんは、古楽、オーケストラのソリスト、歌曲の活動に加えて、時折オペラにも出演されています。今年はスコットランドで、初めて「ペレアスとメリザンド」を歌ったそうですね。

サンプソン はい、今年は5年ぶりにオペラの舞台に立ちました。2012年にストラヴィンスキーの「道楽者のなりゆき」のアン・トゥルーラヴ役を歌って以来です。メリザンドを演じるのは最高の体験でしたし、久しぶりに出演して改めてオペラの虜になると同時に、あまり頻繁にはできないことも実感しました。オペラの舞台に立つことの魅力は、魔法の要素、扮装する楽しみ、ストーリー、そして他人になりきることです。
 今回のマクヴィカー新演出の「ペレアスとメリザンド」は、登場人物たちをおとぎ話ではなく現実の人間として描いたもので、オペラにかかわった2ヶ月間、役になりきって濃密な時間を過ごしましたが、逆にこれだけ役に深く入り込んでしまうと、そんなに頻繁にはできないと思いました。まだ子どもたちが小さいので、長期間家を空けたくないという個人的な理由もあります。

――最後に日本の聴衆へのメッセージをお願いします。

サンプソン 今回、ジョセフとデュオとして初めて日本を訪れることをとても楽しみにしております。歌曲のリサイタルの大きな魅力――そして難しさでもありますが――は、数分ごとに異なるストーリーを語ることができる点だと感じます。今回はこれらのたくさんのストーリーを、日本の皆様への〈花束〉としてお贈りしたいと思います。

(文・構成:後藤菜穂子 写真:Marco Borggreve 協力:ユーラシック)

【公演情報】

キャロリン・サンプソン ~花に寄せて~
2017年12月6日(水) 19:00開演 (18:00開場)
全席指定 6,500円
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