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インタビュー セルゲイ・アントノフ

王子ホールマガジン Vol.28 より

祖父はピアニスト、両親はチェリストという音楽一家に育ったセルゲイ・アントノフ。昨今は次々に有能な若手チェリストが現れ、クラシック音楽シーンに話題を提供しているが、そのなかでもとりわけ期待がもたれる演奏家の一人である。2007年の第13回チャイコフスキー国際コンクール・チェロ部門で優勝。この成功によってモスクワ・フィルと5年にわたるロシア国内での演奏契約を獲得したほか、08年には日本、韓国、中国を歴訪、その名を各国に知らしめることとなった。そのアントノフが、来る6月17日、王子ホール主催公演に登場する。本格的な日本デビュー・リサイタルを前に話を訊いた――

(c)Hikaru_☆

セルゲイ・アントノフ(チェロ)

1983年、ロシア、モスクワ生まれ。モスクワ中央音楽学校を卒業したのち、モスクワ音楽院を2006年に卒業。中央音楽学校ではM.ジュラヴリョーワ、モスクワ音楽院ではN.シャホフスカヤに師事。M.ロストロポーヴィチ財団のスカラシップを受け、ロストロポーヴィチのマスタークラスに参加。ブルガリア・ソフィア国際音楽コンクールでグランプリ、ポッパー国際チェロ・コンクールで第1位を獲得した。07年、第13回チャイコフスキー国際コンクールのチェロ部門優勝。08年、コンクール優勝者によるコンサートツアーで初来日。「優美で流麗な演奏、重厚な音色に加えて、美しく澄んだ高音域も聴かせ、聴衆を魅了した。」と好評を得た。現在ボストン在住。08年春は、日本、中国、韓国で15回のコンサート、夏は音楽祭への参加。そのほかロシア国内、ヨーロッパ、アメリカでリサイタル、室内楽など多くの演奏会が行われている。

 

――ご両親ともにチェリストとのことですが。

ええ、両親ともにチェリストです。僕の最初の先生は母でした。12歳まではモスクワ中央音楽院で教師をしていた母に指導してもらったんです。それからモスクワ音楽院でナタリア・シャホフスカヤという有名な先生につきました。その後アメリカではグラミー賞も受賞したテリー・キングのもとで勉強しました。人間的にも音楽家としても素晴らしい方です。

――具体的にどういった影響を受けたのですか。

 ある時点から、彼は師匠であると同時にすばらしい友人となりました……音楽家というのはある段階に達すると、技術的なことよりも別の次元で学ぶ必要がでてきます。ですから単なる『教師』というよりも『師匠』や『友』としての比重が増してくるんです。キング先生の場合、ある日こういうことを言ってくれました。『もう君を教えることはできない。私にできるのは、君の鏡となって、何が見えるかを君に知らせることだ』と。おかげで自分自身について、そして自分と周囲の環境や音楽、とくにチェロとの関係について、意識を深められるようになりました。

――チャイコフスキー・コンクールについてお聞かせください。出場してみていかがでしたか?

チャイコフスキー・コンクールは多くの音楽家にとってひとつの目安となるステップだと思います。このコンクールは出場するのも大変だし、期間中もすさまじいハードワークを求められます。大変なのはコンクール中に自分をどうコントロールするか。2週間ほどあるコンクール期間中は気を抜きすぎてもダメだし、気合を入れすぎてもダメだし、練習をしすぎてもいけない……。コンクール後はロシア連邦全土でコンサートをすることになりました。アメリカでも公演がありますし、日本や韓国、中国もツアーで訪れました。人生における大きな節目になりましたね。

――パートナーのイリヤ・カザンツェフについてお話しください。彼とは長い付き合いのようですね。

 学生時代からの知り合いです。僕がモスクワ音楽院へ進学するタイミングで彼はニューヨークへ行ってしまいました。その後しばらくは連絡を取っていなかったのですけど、自分もアメリカで勉強するようになって、彼のことを思い出したんです。久しぶりに合わせてみるとしっくりきたので、カナダやアメリカで演奏会を開くようになりました。長年知っている人間と一緒に演奏するというのはいいもので、相手の性格なども良く知っているから余計な気を使うこともなく、音楽だけに集中できます。

――今回のプログラムについてお話しください。

 ラフマニノフのチェロ・ソナタは、ロシアのチェロ作品としては最高傑作のひとつですね。何よりもまず美しい曲だし、人気もある。ゴージャスな作品です。それから後半の小品ですが……今回集めたのはチェロの小品として人気があり、美しく、弾いていて楽しい作品ばかりです。ですが選ぶのは簡単ではありませんでした。小品集というのは難しいんですよね。ちゃんと考えて組み立てないと退屈になってしまう恐れがあります。単純に急・緩・急・緩とつなげるのでは芸がないし、『ストーリー』が見えないと面白くない。もちろんこういったことを『宿題』として考えるのも楽しい作業です。

――ところでご自身で室内楽をやることは?

 もちろんあります。室内楽は人生のなかでも大きなウェイトを占めています。トリオもカルテットも大好きだし、室内楽音楽祭にもたくさん参加しています。この夏はロードアイランド州で行われるニューポート音楽祭に3度目の参加をします。この音楽祭では1日平均3公演、ときには4公演もあります。もちろん全部に出るわけではありませんよ。40年以上前に音楽祭を立ち上げたマーク・マルコヴィッチのディレクションが素晴らしくて、雰囲気はいいし、膨大な作業量にもかかわらず『リピーター』となって何度も出演するミュージシャンがたくさんいます。毎日10~12時間もリハーサルをするから、かなりキツイことは確かですけど(笑)。

――ボストンでもモスクワでも、定期的に一緒に演奏する面々というのはいるんですか?

 今のところ定期的に演奏する室内楽グループはありません。ピアノ・トリオであれ弦楽四重奏団であれ、常設の室内楽グループというのはそれ自体がひとつの楽器、ひとつの人格みたいなものです。常に一緒に移動し、練習しなければならないので、ソリストとしてのキャリアを追求する暇がない。人によっては40歳ぐらいになってようやく自分が何よりもカルテットをやりたいのだと気づいて、同じようにカルテットを愛してやまない仲間を見つけて――というケースもありますが。個人的には室内楽が一番難しいと思いますよ。音楽的なニュアンスを作っていくことにしてもそうだし、レパートリーの膨大さにしてもそうだし、特別なものだと思います。いわばひとつの生き方です。少なくとも真剣な高いレベルでのキャリアとして考えると、決してラクとはいえません。

――若い世代の音楽家の一人として、今後の抱負をお聞かせください。

 今はクラシックの音楽家にとって非常に厳しい時代です。けれども若い世代の音楽家を代表して言わせていただくと、僕たちは準備万端整えて、モチベーションを高く保っています。機会があれば喜んでいくらでも演奏しますよ! 音楽家の中にはクラシックの世界に飽きてしまって別のジャンルに身を置く人もいますけど、自分にとってはそれが不思議でなりません。クラシックは決してタイクツな世界ではありません。確かにポピュラーでも、大金を稼げるジャンルではないかもしれない。でもクラシックは美しく驚きに満ちた世界で、クラシックの名曲をすべて演奏し、クラシックに携わる素晴らしい人々と出会い、そのすべてを究めるには、人生が一度ではとても足りませんよ!

(文・構成:柴田泰正 写真:keiko kurita 協力:オレンジノート)

【公演情報】
セルゲイ・アントノフ
2010年6月17日(木) 19:00開演(18:00開場)
全席指定 5,000円

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