宮本益光(バリトン)

出演回数 29回

早い者勝ち
王子ホール開館25周年、心よりお祝い申し上げます。
私は2006年から「銀座ぶらっとコンサート」で歌わせていただいており、有難いことに今年2017年9月で23回目の登場となります。大体1回の公演で10~12曲を演奏いたしますので、200曲以上を王子ホールで演奏した計算になります。 大人気の「銀座ぶらっとコンサート」ですが、私は恐れ多くも「宮本益光の王子な午後」と自ら名乗りここまでやってきました。ただ「王子ホール」と「王子」をかぶせたかっただけで、決して私が王子キャラでないことは十分自覚していますよ。 しかし年月の積み重ねは素晴らしいですね。王子ホールのスタッフさんは、やや小さな声で私を「王子」と呼んでくださいますし、お客様の幾人かも「王子」と呼んでくださるようになるのですから。まさに早い者勝ちの論理です。私は勝利したのです。

さて、これまで10年にわたり20回以上の公演を経験したと申しましたが、当然いろいろなことがありました。中でも忘れられないのは、声帯炎、気管支炎となり、声が全く出なくなり、歌手人生初となる降板を経験したことです。 現状を告げるために王子ホールを訪れたときは、生きた心地がしませんでした。「延期しましょう。長くやっていればこんなこともあります。」そう決断して下さったこと、それから延期公演での冒頭でお詫びを申し上げたときのお客様の拍手、これらのことを思い出すと私は今でも目頭が熱くなります。私は生かされている、そう強く実感しました。

そして最も思い出深いのは2016年の「王子な午後」第20回。副題に「王子な10年、友情の20年」と掲げましたが、その友情とは全ての回で共演してくれている加藤昌則氏とのことです。ずいぶん長い付き合いです。私が最も信頼するピアニストであり、私が最も注目する作曲家であり、私が最も安堵する友人。彼とでなくては生まれない音があるのです。 そんな第20回のプログラムは加藤昌則氏の歌曲のみ。20代の前半「新しい日本歌曲を創って日本を驚かせてやろうぜ」と語り合っていた夢が実現したではありませんか。

演奏家はオーケストラの楽団員でもない限り、活動拠点を持つことはまずないことです。傲慢に聞こえるかもしれませんが、私はここ王子ホールを活動拠点だと思っています。年に2度の「王子な午後」だとしても。 王子ホールだから挑戦できることがあり、分かることがあり、ここだから会えるお客様がいる。私はこれからも、この王子ホールで成長していることを認識し続けたいのです。
王を名乗るその日を楽しみに夢見ながら……それも早い者勝ちかな。

 

2007年9月5日 シリーズ第3回は「お料理の歌」がテーマ。新作《チョコマ茶漬け》は実演しながらの演奏。

2014年2月15日 ともに癌で亡くなった夫婦の闘病日記を原作とした連作歌曲「二本の木」をホール委嘱により制作(台本:宮本益光、作曲:加藤昌則)。

2016年3月9日 記念すべき20回目の「王子な午後」。協賛ヨックモック社の看板商品「シガール」にかけた新作《詩がある》を初演。