池田菊衛(ヴァイオリン/東京クヮルテット)

出演回数 12回

王子ホール開場25周年おめでとうございます。 王子ホールは年間120回以上の演奏会を毎年弾いていた東京クヮルテットにとって、自分達の魂の故郷である日本で弾くたびに「お帰りなさい!」と迎えてくれる会場と聴衆が欲しいと言う希望を叶えてくれたホールでした。日本で一度だけ行ったレコーディングも日本のサヨナラ公演も王子ホールでした。次の企画をプロデューサーと忌憚のない意見交換が出来た日本でただ一つのホールでもありました。これは演奏家冥利に尽きます。

2010年2月にクヮルテット40周年記念に『Journey 旅』と題して行った3回公演は特に忘れ難いものです。初日公演「旅立ち」では1969年のニューヨークデビュー公演を完全再演し、最終日公演「これから」で弾いたシューベルト五重奏曲は2013年6月の本拠地ニューヨークのサヨナラ公演でも演奏しました。特に思い出深い二日目の公演「現在地」では東京クヮルテット43年間の歴史の中でもただ1回だけ、世界中でも王子ホールでだけの“挑戦”として、公演1年前から我々に弾いて欲しい曲をお客様に投票して貰いました。実はこの“挑戦”には布石があり、2008年の公演で実験的にアンコール曲の投票を行いました。休憩中に投票して頂き、集計の結果一番になった曲をアンコールで弾いたのが好評だったのに味をしめ、今度は全プログラムをお客様に選んでいただこう!となったのです。アンコール曲の集計結果を舞台裏で渡された時もそうでしたが、2010年の時も投票結果を聞くまでどの曲にリクエストが多く集まるのかメンバー皆興味津々ワクワクしたのが懐かしく思い出されます。と同時に、コンサート後半のわずかな時間の内に集計して下さったホールの方々はさぞ大変だっただろうな、と今更ながら感謝の気持ちで一杯です。 ありがとうございました。

素晴らしいコンサートは素晴らしいカルテット演奏と似ていると僕は思います。「ホール」、そこに立つ「演奏家」、演奏する「作品」、聴きに来て下さる「お客様」。全てが重要です。でも良いカルテット演奏とは単にハーモニーや音程・テンポが合っている演奏なのではありません。互いに火花を散らす様なぶつかり合いや激しさも時には必要であり、それこそがコンサートの醍醐味です。ちょうど我々の2013年の“挑戦”を「ホール」と「お客様」が受けて立って下さった様に。王子ホールの強みは、有能なチーフプロデューサーを中心にバラエティに富んだ企画公演を組めることです。「お客様」は「演奏家」や「ホール」に遠慮無く挑んで下さい。王子ホールで一期一会のカルテット演奏をご一緒に楽しみましょう。

2008年3月4日 「東京クヮルテットの室内楽 Vol.2」では聴きたいアンコール曲の投票を実施。《死と乙女》強し。

2010年2月20日 創立40周年を記念する3日間のコンサート。デビュー・プログラムの第1日、リクエスト・プログラムの第2日を経て、『今、そしてこれから』をテーマにした第3日。ゲストはチェロの石坂団十郎。

2013年5月21日 日本での最終公演はハイドン、バルトーク、シューベルトの最後の弦楽四重奏曲を披露。終演後は創立メンバーの名倉淑子を迎えてケーキカットも。